人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日々考えていることを思うままに。ひっそりと栃木SCを応援しつつ、かなり脱線してます。(注:エキサイトブログを除き、リンクのないトラックバックは受け付けない設定となっております)


by silky_wing

オシムとエスパルスとトルシエとゼムノヴィッチ。

オシム監督が個別のチームについて言及することは(当然のことながら)多くないが、エスパルスのサッカーについては別で、「世界のトレンドに乗っている」と高く評価しているようである。

Q.長谷川監督で2年目を迎えるエスパルスに変化のあとは感じたか。
A.昨年に比べ、簡単にいえば氷が溶けた感じだ。若い監督の1年目というものは、得てして周囲の選手が信頼を置かないもの。しかし、その問題を彼は実績でクリアし2年目に突入した。また、彼は若いながらアイデアが近代的でトレンドに乗っている。ボールをつなぐだけではなく、チャンスと見れば一気に攻め込んでいくサッカーを標榜している。それが世界のトレンドなわけだが、完全にモノにできているかどうかはいえない。それには選手の質も必要だ。ウチにもいえることだが、そういうサッカーをするならかなりの体力が必要。体力が落ちてきたときにどうするかが問題だし、最後は経済的にプレーしたほうがいいかもしれない。真ん中でつなぐより、長いボールを使うとかね。

http://www.so-net.ne.jp/JEFUNITED/comment/j-league/2006/j_06_04.html

が、しかし、エスパルスの選手は今回の遠征には一人も選ばれていない。
ここに、オシムサッカーの本質があるように思えるのである。

現在の世界的なトレンドは、簡単に言えば、
○4バックを採用し、DFはCBもこなせる人材を配置する。
○DFは極端なラインコントロールはせず、スペースを意識したポジショニングをする。
○ボールを奪ったあとの切り替えをすばやく行い、ハーフカウンターを狙う。
といったところは共通しているのではないだろうか。
(ミラン、バルサ、チェルシーあたりもこの辺だけは共通している)
※こうした世界的な潮流に関しては、私自身はあまり詳しくないが、z-net氏のblogで丹念に分析しておられるので、興味のある方は参照されたい。

2006年のエスパルスは、このトレンドを忠実に実践している。

<エスパルス2006年バージョン>
    チョ 丸木
藤本         兵働
    伊東 枝村
山西 青山 高木和 市川

しかし、このシステムには重大な問題点が存在する。
同じシステム同士で対戦した場合、選手の能力差がそのまま現れることである。
エスパルスの好調の要因は簡単で、若手の成長が戦力増にストレートに反映したためである(もちろん、これを実現したスカウティングと育成については高く評価できる)。しかし、世界的にみれば、ビッグクラブなら問題ないのだが、それ以外のクラブが格上のチームに勝つのは、このシステムでは困難である。

オシムの目指すサッカーは、現在の世界的なサッカーの潮流からみると傍流にあたるのではないかというのは、以前指摘したが、その最大の「違い」は、流動的なポジショニングにあるように思う。上記のトレンドでは、「試合を決定づける選手」(ピルロ、ロナウジーニョ、ランパード、ジェラードなど)を除けば、ソリッドなプレーをすることが義務付けられている。しかし、オシム氏のコンセプトはその正反対だ。フィールドプレイヤー全員が流動的なポジショニングをし、全員に「試合を決定付ける」仕事を要求する。逆に言えば、彼の言う「スペシャルキッカー」を含めて、「特別な選手」の存在を認めない。果たして、この方法が機能するのか、そして、この方法で個々の能力で見劣りする日本選手が世界に伍していくことが可能なのかはまだ未知数である。しかし、挑戦してみる価値はあると思うし、好みはあると思うが、見ていて気持ちのいいサッカーであることは間違いないと思う。

ここで、話は急に5年前に遡るのだが、2001年当時、トルシエ・ジャパンに一番近いメンバー・フォーメーションだったのが、エスパルスだった。

<エスパルス2001年バージョン>
  バロン 久保山
     澤登
アレ        市川
   戸田 伊東
  古賀 森岡 斉藤

当時の監督はゼムノヴィッチ。
現在も日本で指導を続けており、母国でオシムのサッカーを理解していて、かつ日本語に堪能なことから、オシムジャパンの入閣が噂されている人物だ。
時代の流れを感じずにはいられない。

一見共通項がないように見えるトルシエとオシムであるが、上記の世界的な潮流を知りつつ、日本人が世界に伍して戦っていくために、敢えて世界的なトレンドに乗らない途を選択しているという面では共通している(※トルシエが日本人が世界と戦うために、世界的なトレンドに敢えて逆らって3バックに拘ったという説は、当時「ル・モンド・トルシエ」というサイトの主宰者だった山田泰氏(現(株)スクワッド(「エル・ゴラッソ」発行会社)代表取締役)の当時のコラム(今は閲覧できないけど)による。)

とはいうものの、私自身もトルシエが当初構想したエキセントリックなライン・コントロールに全面的に賛成しているわけではない。極端なライン・コントロールはデル・ネリ時代のキエーヴォのようにハマれば強いのだが(例:ナイジェリア・ワールドユース)、リスクが大きいため、一発勝負のカップ戦にはむいていないように感じるからだ。したがって、宮本がラインを下げる「決断」をしたのは、やむを得ないことだったのだろう。

まあ、今更トルシエ・サッカーの総括をしてもしょうがないとも思うのだが、ジーコ氏が余りに戦術面で無頓着だったために、「個人」と「組織」という不毛な二項対立だけが突出してしまい、トルシエ時代を正しい意味で相対化できなかったのが残念だったことによるので、その点はご容赦いただきたい(実はトルシエ在任中はかならずしも支持派だけではなく、ネット界の議論も丁々発止であり、今よりもずっと議論のレベルは高かった。興味のある方は、「ル・モンド・トルシエ」(既に閉鎖)のウェブ・アーカイブをご参照いただきたい)。
by silky_wing | 2006-09-02 11:00 | 日本代表